長々としたブログ

主にミネルヴァ書房の本が好きでよく読んでいます

「世界の経営学者はいま何を考えているのか

 

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

 

 

入山章栄さんの「世界の経営学者はいま何を考えているのか」を発売当時に読んだのですが、この年始に再び読み直しました。各章についてのまとめ

第1章:

ドラッカーは学問的な対象にはされておらず、ハーバード・ビジネス・レビューは学術誌ではなく動向などを紹介する程度の雑誌である。

第2章:

どちらかというと欧米は仮説を立て、それを統計的に検証する演繹的アプローチ、日本はどちらかというと観察からもたらされる情報から法則や含意を引き出す帰納的アプローチ。欧米の学術誌の掲載された本数の大半に統計分析が用いられていることからも明らか。

第3章:

マクロ分野の経営学は3つの理論ディシプリンからなる。

<経済学に基礎をおくディシプリン。マイケル・ポーターのファイブ・フォースなど。

<認知心理学に基礎をおくディシプリン。ハーバート・サイモンや野中郁次郎など。

<社会学に基礎をおくディシプリン。経済学ディシプリンほどは厳密ではないが、影響力は大きい。

3つのディシプリン全体を網羅した教科書はなかなかなく、完璧に把握するのは学者でさえとても難しい。

第4章:

ポーターの「競争をさける戦略」を実現する企業はきわめて少数。どんどん難しくなってきている。長い間競争優位を保つのではなく、いったん競争優位を失ってから一時的な優位をくさりのようにつないでいる企業が増加している。より積極的な競争行動をとる企業のほうがその後の総資産利益率がよい。攻めの積極的な競争行動が、差別化によるユニークなポジション取りにつながり、うまい守りにつながる。

第5章:

「誰が何を知っているか」を知っていることがトランザクティブ・メモリー。組織内で自然に形成されやすいことが好業績につながる。

第6章:

マイルス・シェイバーの98年の論文が衝撃を与える。その本質は内生性の問題について。経営効果やベンチマークを見る際には、因果関係の把握をしたり業績の悪い企業をも調査に加えてみる。

第7章:

イノベーションは範囲の探索と深化の2つを両利きで。深化に偏りがちになりやすい。知のポートフォリオを把握せよ。

第8章:

弱いネットワークであることによる情報伝達の効率の良さ。

第9章:

ストラクチュアル・ホール(ネットワークをつなぐ重要な結合点)に恵まれた人や組織はより得をする。

第10章:

日本人はきわだって集団主義的な国民性ではないが、ややその傾向があり、それゆえに海外企業との協力関係を築くのがうまくない可能性がある。

第11章:

アントレプレナーシップ活動は集積する傾向がある。同時に超国家コミュニティの発展により国際化している。

第12章:

リアル・オプションの事業計画は計画主義と学習主義の架け橋となりうるか。外征的な不確実性、内政的な不確実性を分けて、外生的な不確実性の楽観ケースと悲観ケースでどのような戦略オプションがあるか検討する。それぞれで事業の収益性が評価。

第13章:

買収の際のプレミアムの上乗せは、経営者の成功体験や国家のプライドで説明がつく。

第14章:

CVCは事業会社のオープン・イノベーションの一手段。スタートアップからしてみればサメのようなもので事業会社は信用を築き上げることが重要。

第15章:

リソース・ベースト・ビューはトートロジー

第16章:

理論の乱立が起きている。面白い理論への偏重が重要な経営の事実・法則を分析することを妨げている。平均にもとづく統計手法では、独創的な経営で成功している企業を分析できない可能性。

第17章:

理論偏重からはなれたエビデンス・ベースト・マネージメントの研究は緒についたばかり。また研究を研究するメタ・アナリシスによる経営学の推し進めを。

 

 感想:

門外漢にも非常に読みやすく、章ごとにコンパクトにまとめながら読者の理解を待った上で数多くのフロンティアに触れさせるというとても丁寧な作り。それでも一度で理解は難しいですが、今回読み直したことでいろいろ理解が進んだと思っています。個人的には今年は良書の二周目を読んでアウトプットしていきたい。