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コリアー 『最低辺の10億人』 3 集積する経済とガバナンス

続きです。

http://naganaga5.hatenablog.com/entry/2014/03/09/214906

 

最底辺の10億人

最底辺の10億人

 

  前回では、最低辺の10億人諸国が陥る4つの罠についての説明がありました。

 援助では解決しないという意見も、援助が足りないという意見もあり、先進国に住む私達はどのような目でこの問題をとらえるべきでしょうか。

 

 

  • 第6章 世界経済の中で好機を逸する最貧国

 

 底辺の10億人の国々は、先に四つの章で取り上げた罠のうちいずれかに捕らわれている。

 人々の73%は内戦を経験し、29%は天然資源の収入に支配される国に住み、30%は資源に乏しい内陸国で劣悪な近隣諸国に囲まれている。

 さらに76%は長期に渡る劣悪なガバナンスと経済政策を体験してきた。

 さらに、国の中には、同時にあるいは連続してひとつ以上の罠にかかる場合もある。

 これらの罠は確率的なものであって、ブラックホールと違い、脱出が不可能ではない。ただ困難なだけである。

 罠から脱した時には、国は追い上げを始め、急激に成長すると考えられるかも知れない。

 この追い上げの専門用語は「収斂」であり、そのよく研究された例が欧州連合である。

 そこではポルトガルアイルランド、スペインのように最初は一番貧しかった加盟国が急速に成長し、一方ドイツのように当初は一番豊かだった国の成長が足踏みした結果、ヨーロッパ連合を形成する国々は収斂したのである。

 底辺の10億人の国々が収斂の方向に逆らっているという事実が、著者が最初にとりかかった謎だった。

 グローバル化によって多くの開発途上国繁栄へと弾みをつけたが、悲しい現実として、それよりも遅れてきた国にとっては、グローバル化は事態をさらに困難にしているのだ。

 そもそもグローバル化とはなにか。開発途上国へのグローバル化の影響は、明確な三種類のプロセスを経る。

 ひとつは物品の貿易、二つ目は資本の移動、最後は人間の移動である。これが底辺の10億人の国にどのような影響を与えるかを見てみよう。

 

 国際貿易は数千年間続いているが、その規模と内容が劇的に変化したのは、この25年間のことである。

 この時期に開発途上国が史上初めて、一次産品ではない商品とサービスの分野で国際市場に参入したのだ。

 なぜ開発途上国に競争力がなかったのか。

 その理由の一つは、豊かな世界が貧しい世界に対して貿易障壁を築いていたからである。

 また貧しい国が自ら貿易障壁をつくって、これが競争的な世界市場への輸出の障害となり、自分たちで災いを招いたからである。

 しかし貿易障壁だけでは、これほど長期間賃金格差が続いたことの説明にはならない。 

 より重要な説明としては、製造業においては、豊かな世界が生産規模を拡大することでコストの節約を図ることができ(規模の経済)、これによって大きな賃金の格差による影響を排除できるからである。

 すなわち、もし別の企業が同じ場所で同じ製品を作っているならば、あなたの企業のコストも引き下げられることになるだろう。

 このためほかに企業のない場所に移転すれば、非熟練労働力ははるかに安く手に入るが、コストそのものはかえって非常に高いものにつくことになる。

 これについての専門用語は「集積の経済」であり、ポール・クルーグマンとトニー・ベナブルズによる洞察の重要な構成要素である。

 欧米からアジアに製造業が移転したのと同じ現象である。

 ひとたび移転の動きが始まると、低賃金のアジアに「集積」が膨らみ、爆発的な変化になる。

 こうなるとアジアでも賃金は上昇するが、最初の格差が大きく、またアジアには大量の低賃金労働力があるため、「収斂」のプロセスにはまだ相当の年月がかかるだろう。

 90年代には、アジアが工業製品とサービスについて集積度を高めていったため、アジアではこうした経済の集積によって競争力は途方もなく強くなっていった。

 彼らに豊かな国も底辺の10億人の諸国も競合できなくなった。

 豊かな国は低賃金でなく、底辺の10億人の国々は低賃金だったものの、集積がなかった。こうしてどちらも乗り遅れてしまったのである。

 

 まずアフリカ諸国は格段に内陸であるか、また資源が豊富化のどちらかである。

 この二つのカテゴリーは輸出の多様化に関する限り、それぞれ別の理由から脱落しやすい。

 80年代を通じて劣悪なガバナンスと政策を免れていたのは、モーリシャスぐらいだったのだ。

 もし、ガバナンスと政策が好転していたのなら、企業はアフリカを選んだだろうか。

 その結果、ガバナンス及び政策のひどい失敗を免れるごとに、年々、輸出の多様化の成功例が優位に増加していくことがわかった。

 自ら災いを招くことをやめた国は新しい輸出市場に参入できたのである。

 グローバル経済の自動プロセスによって、いずれは好機は訪れるだろう。

 しかし底辺の10億人の国は長い間待たなければならないだろう。

 アジアの発展を促した自動プロセスが、今度は底辺の10億人の国の発展を妨げるのである。

 ここで明確にしておくが、私達の手ではそれらの国を救済することはできない。底辺の10億人の諸国は内部からのみ救済される可能性があるのである。

 すべての底辺の10億人の諸国にも、変革のために尽くす人達がいる。私達はこれらの英雄に手を差し伸べ続けるべきである。

 

続きます。