コリアー 『最低辺の10億人』 1 国家はなぜ成長できないのか
最近ではアセモグルの「国家はなぜ衰退するのか」の出版もあり、成功した国家と失敗した国家が、どのあたりに原因を求めるのかという議論もありました。
アセモグルでは主に先進国と発展途上国に視点を当てていましたが、本書はボトムビリオンと言われる最下層の10億人のみに着眼しています。
また『国家はなぜ衰退するのか』がともすれば還元主義のように見えなくもなかった内容でしたが、本書では徹底的に統計的な手法を用いて実証的に検証しています。
執筆時期により人口60億人強の頃の話で、数字もそのように書かれていますし、今では発展も進みつつありますが、本書で挙げられる数字の多くは強烈なイメージを今も与えてくれます。
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はじめに
本書ではマラウイやエチオピアなどのように、今も世界経済システムの底辺にある開発途上国を扱っている。
現在底辺にある国々は最貧状態にあるばかりでなく、成長できなかったという点も特徴的だ。
これらの発展の失敗は世界的な発展の成功の陰で起きた。発展の失敗の多様性すべてに通用するような説明はない。
そして著者は四種類の罠によって現在底辺にある国々を説明できるようになった。
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第1部 なにが本当の問題なのか?
- 第1章 脱落し崩壊する最底辺の10億人の国
50億の人々は既に繁栄しているか、あるいは少なくとも繁栄の途上にあり、一方の10億人の国々は底辺に閉じ込められたままひしめいているのである。
大部分の社会は上に登っている。底辺にある国は墜落していく不運な少数派であり、そこにはまり込んでしまっている。
開発の罠はアカデミックな分野でも、右と左に別れて活発に論争されるテーマである。
右派の論理では開発の罠は存在せず、良い政策を採用した国は貧困から脱することが出来るとする。
一方、左派の論理はグローバル資本主義が本来的に貧困の罠を生み出すと主張する。
本書はこれまであまり注目されてこなかった四種類の罠を取り上げている。
紛争の罠、天然資源の罠、劣等な隣国に囲まれている内陸国の罠、そして小国における悪いガバナンスの罠である。
あえて底辺の10億人に対し地理的レッテルを用いるとすれば、「アフリカ+α」となるだろう。
つまりアフリカに、ハイチ、ボリビア、中央アジア諸国、ラオス、カンボジア、イエメン、ミャンマー、北朝鮮のような場所がプラスされるのである。
底辺の10億人の国々はどのような状態にあるのか。平均寿命はほかの開発途上国では67歳だが、底辺の10億人の国では50歳にすぎない。
底辺の10億人の国々とほかの開発途上国の間には、もともとギャップがあったのだろうか。
1970年代には年間2%の相違だったが、それは底辺の10億人の人々にとって、成長どころか凋落への一つの分岐点であり、まもなく情勢はきわめて悪化していった。
80年代にはその差は年4.4%、90年代には年5%にも達したのである。
底辺の10億人の国の社会はほかの開発途上国から加速度的に大差を付けられることになり、二つの異なった世界を形成するにいたった。
この格差によって底辺の10億人の国々の大部分は既に、グローバルな堆積の最下辺に押し込められてしまった。
現在では成長率の視点からではなく、貧困削減とミレニアム開発目標の側面から論議されている。
しかし、著者は今でも、底辺の10億人の国にとっての問題の核心は成長であると確信している。
改善は可能である。変化は底辺の10億人の国の内部から起きなければならない。
続きます。