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主にミネルヴァ書房の本が好きでよく読んでいます

子どもの貧困 2  解決策とこれから

http://naganaga5.hatenablog.com/entry/2014/02/12/224919

の続きです。

 

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

 

 

 

  • 第5章 現金給付を考える

 

 子どもの貧困対策を論じる時、もっとも激しく意見が対立するのが、「現金給付か、現物給付か」という論点である。

 そのお金を親がどのように使うかを限定できないため、教育や保育サービスなどの現物給付のほうが優れていると考えている人は多い。

 対するのは、個々の子どものニーズは親がいちばんよく把握しており、それを超える決定を行政ができると考えるのは過信であるという議論である。

 アメリカのさまざまな現物給付の効果を測定した結果、現物給付のほうが優れているという説にはならなかったのである。

 現金給付は、世帯が最も必要とする部分に届く。仮に、現物給付によってさまざまなニーズ全てをカバーするようにするのであれば、政府は膨大なリストのプログラムを準備しなければならない。

 一方で、お金で解決できないものもある。これは主に教育や保育など、市場原理に任せておくとサービスの量と質が確保できないもので、公的サービスとして現物給付が望ましい。

 

 児童手当、児童扶養手当、遺族年金、生活保護制度。

 これらの制度の受給者数と支給額をみると、日本の社会保障制度はすでに、貧困の子どもがいる世帯について十分大きな給付をしているように見えるかもしれない。

 しかし、他の先進諸国に比べると、日本の貧困世帯に対する給付はまだまだ小さいといわざるを得ない。

 日本では、再分配後の(子どもの)貧困率のほうが、再分配前より高い、という逆転が起こっていたのである。

 現行の児童手当は、子ども手当て時代から引き続いて、金額、その普遍性ともに拡充されているが、子どもの貧困率の削減のデータが公表されるまで、まだ月日を待たなければならない。

 

 日本の厳しい財政事情においては、現金給付の中でも、どこに焦点を当てるかプライオリティをつけなければならない。

 まず、子どもの貧困率の逆転現象を解消することを最優先の課題にすべきである。日本の再分配の状況は、先進諸国に比べても大幅に劣っている。

 そのためには、児童手当や児童扶養手当といった現金給付を拡充させることが不可欠である。

 まずは、依然として、圧倒的に高い貧困率を示す一人親世代について、さらなる現金給付の拡充が必要と考える。

 生活保護制度は、一般市民からの批判も多いので、より広く母子世帯・父子世帯をカバーする児童扶養手当の拡充は検討されるべきであろう。

 もう一つの重要な要素として、乳幼児期を重視することを提案したい。とくに貧困の影響が大きく現れるのがこの世代である。

 

  • 第6章 現物(サービス)給付を考える

 

 乳幼児期の現金給付の拡充と同時に、保育政策の一層の拡充が必要である。

 重要なのは、親の就労対策としての保育政策ではなく、子どもの貧困対策としての保育政策である。

 子どもをみていることを目的とするのではなく、貧困の影響を最小限に食い止めることを目的とする制度となれば、その制度設計から大きく異なってくるであろう。

 保育所にて、貧困層の親のニーズを把握し、福祉事務所や就労支援など必要な支援に繋ぐことが出来る。言い換えれば保育所が福祉の総合窓口となるのである。

 しかし、実際には、現状の保育所マンパワーでは、そこまでの支援は困難である。保育や幼児教育の専門家であっても、福祉の専門家ではないからである。

 学校にスクールソーシャルワーカーが必要であり、病院に医療ソーシャルワーカーが配置されるべきであるように、保育の現場にもソーシャルワーカーの役割を果たす人材が必要である。

 また、医療のセーフティーネットの強化、給食の栄養プログラムとしての活用、発達障害・知的障害への対策強化、放課後の格差を解消するプログラム、メンターシステム、学習支援などが必要であろう。

 

 親に対する現物給付について考えたい。

 本書では、子どもの貧困をとくに意識した親への現物給付として、妊婦への支援と精神疾患や障害を抱えた親に対する支援の二つを取り上げたい。

 日本には母子手帳という素晴らしい制度があり、妊娠した時点で役所との接点がある。これを利用して、貧困層の親への積極的な支援を始めるきっかけとするべきである。

 母子世帯や貧困世帯において、親の健康状態(とくに精神状態)が悪い確率が高いことは日本のデータでも確認されている。

 しかしながら、親が何らかの問題を抱えていても、即、子どもに困窮のサインが見えないこともあり、現状では、子どもへの支援の手が差し伸べられていない。

 医療サービスの現場において、家族の問題にまで手を差し伸べることは困難かもしれないが、福祉や教育行政と連携しながら、親の疾患や障害の影響が子どもにまで及ぶことを食い止める姿勢が必要であろう。

 

  • 第7章 教育と就労

 

 子どもにかける教育費が、家庭の経済状況によって大きく異なることは疑いの余地がない。

 この格差を完全に解消することは政策的には不可能である。なぜなら、政府は親が子どもを塾に通わせたり、私立学校に通わせることを禁止することは出来ないからである。

 問題は、すべての子どもに与えられるべき最低限の教育費はどこか、という点であるが、おそらく義務教育をまっとうに受けるための教育費はそこに含まれるという点では国民的合意が得られるといってもよいであろう。

 現在、これらの経費をカバーするための制度が、就学援助費であるが、必要な経費の全てをカバーしているとは限らない。

 

 より深刻なのは学力の格差であるが、教育費の問題はお金で解決することができるが、学力の問題ははっきりとした解決策がわかっていない。

 しかし、学力格差の問題を考えずに、教育費の格差の解消を図っても無駄である。

 子どもの貧困対策として行うべきことは、まず最低限必要な学力をすべての子どもにつけさせることで、言葉を替えれば、これは落ちこぼれをなくすことである。

 一つの案は、教育予算を増額することである。それでは、どのような予算拡充であれば効果があるのだろうか。

 一つが教師の給与である。すべての教師の給与を一律に引き上げることが教師の質の向上に効果があるという確証はない。

 対して、比較的に有望な政策と考えられているのが、学級規模の縮小である。

 二番目に有望な費用対効果が報告されているのが、「サクセス・フォー・オール」という教育カリキュラムの導入である。

 このカリキュラムは、読解力に焦点を合わせた教育内容であり、とくに貧困層の子ども達を対象として開発されている。

 教育費の格差や学力格差の縮小と同等、実はいちばん大事であると筆者が考えているのが学校生活への包摂である。

 子どもにとって、社会の大きな部分は学校であり、そこで包摂されることが、子どもの貧困対策の大前提となる条件であるからである。

 具体的には、不登校や欠席の状況をつかんで、不登校のリスクの高い子どもを把握して、初期対応をとること、対人関係を配慮しながら学級編成等を行うこと、スクールカウンセラーや養護教員を交えたチームで対応することなどである。

 同時に、子ども達をシビアな労働市場から守る施策も必要である。労働法や社会制度などについて、自分の身を守る最低限の知識を学校教育の中で徹底させることが不可欠である。

 

  • 終章 政策目標としての子どもの貧困削減

 

 2013年6月19日、「子どもの貧困対策法」が成立した。

 法は、子どもの貧困の状況を毎年公表することを政府に義務付けている。子どもの貧困の状況を把握する指標について、法は定めていない。

 筆者の考える子どもの貧困指標と政策の有効順位の考え方を提示したい。貧困指標は、他の先進諸国が採択しているものを参考に、日本に最適な子どもの貧困指標を模索することとする。

 なかでもイギリスの例が有名であるが、実質的には相対的貧困率と物質的剥奪指標の二つの指標から成り立っている。

 将来の選択の幅を残すためにも、数値目標の設定のためとモニタリングのためと両方の目的に使えるようにデータの準備をしておくべきであろう。

 

 まず、数ある政策の選択肢の中から実施するプログラムを選定する際には、以下の3つのクライテリアが重要なのではなかろうか。

 1、実験的な枠組みにより効果が測定されているもの

 2、長期的な収益性が確保できるもの

 3、とくに厳しい状況に置かれている子どもを優先するもの

 一つ目と二つ目は、政府の財政的な健全性を保つためのものである。また、この収益性を重視した政策の選択方法は、懐疑的な人々をも説得する材料となる。

 三つ目は、効果の大きさという観点と、人道的な観点から加えられている。

 

 筆者の考える現金給付の優先順位は二つである。一つは、貧困率の逆転現象を解消すること。そして、是非、ひとり親世帯の貧困率の削減を組み込むべきである。

 もう一つは、乳幼児期の子どもの経済状況を改善すること。今でも、児童手当は三歳未満の子どもを優先するように設計されているが、さらなる拡充が望まれる。

 

 現物給付は、普遍的な性格を保ちながらも、もっとも不利な立場におかれている子ども達への給付が確保されるように、所得制限方式ではない選別の方法を探ることである。

 子どもの貧困に対する政策は、子どもだけへのサービスでは収まらない。子どもを守るという視点から、親へのサービスを考えなくてはならない。

 

まとめ

 

 対策法も成立し、保育所関連の動きも目に見えて動いてきたようで、これらがどれだけ子どもの貧困を解消していくことになるか、僕もよく注視していきたいと思います。