長々としたブログ

主にミネルヴァ書房の本が好きでよく読んでいます

戦後の日本企業経営1(1937-1955)

 

 

 表題は37年からですが、ほとんど戦後について書かれたものと言っていいでしょう。

 

  • 第1章 戦時期・戦後復興期の経済と企業

 

 1930年代後半から1950年代前半にかけて、日本経済は市場経済から統制経済統制経済から市場経済への2つの移行を短期間のうちに経験した。

 

  • 第2章 企業組織の再編成

 

 戦時期に各主要企業は陸海軍管理監督工場となり争って軍需指定会社指定を受けようとしたが、それは軍部によって経営権を拘束されようとも戦時下の資源制約の影響を緩和する必要があったからだ。

 戦時下には高等・中等教育機関が大幅に拡充され、技術者はその数を一気に増大させた。戦後になると、占領軍の元で経営権を拘束したのは労働組合であった。

 労働組合からの大きな制約を脱する上で大きな契機となったのが、占領政策の転換と冷戦の進展であった。

 

  • 第3章 生産システムの展開

 

 1950年代にアメリカのフォード社を訪れたトヨタ幹部は混流生産と、その情報処理をになうIBMのパンチカード・システムの運用に驚いている。トヨタでさえ1955年までに自動車製造全体をシステムとして把握し運用しているとはいえない状況であった。

 1955年以後、動作分析や時間研究の体系的訓練を受けた人物が生産現場に多数供給されるようになる。

 

  • 第4章 衣料品消費の変化と百貨店の興隆

 

 戦後復興期の日本では衣料の洋風化が進んだが、十分な経営資源を有さなかった百貨店側はアパレル製造卸売業との間で導入された委託取引制度で補った。

 百貨店側にリスクになる通常の買取取引方式ではなく、リスクなく商品を仕入れることが出来、適切な品揃えが行われるという結果をもたらした。

 また、アパレル製造卸企業からの派遣店員が消費動向の把握により売り場の主導権を握り、やがて取り扱い商品の価格決定権まで掌握するに至る。

 

  • 第5章 産業金融と銀行の役割

 

 大戦以後、極度の資源制約が課せられ企業の設備拡充・原料確保は行き詰まり、企業間信用の連鎖は至るところで断ち切られて運転資金需要は急拡大を始めた。

 41年以降銀行貸し出しはリスクを高めながら急増した。特殊金融機関は不良資産化した建設勘定の切り離し、民間銀行の負担限度を超えた高リスク投資に対応したものであり、この時期の産業金融を特徴づけるものがあった。

 47、48年には復興金融公庫が、その後は株式・社債市場、興銀などの金融債発券銀行によって供給され、51年以降も日本開発0銀行はじめ政府系金融機関は無視できない。都市銀行が積極的役割を演じ、融資先企業のモニタリングを始めるのは50年代半ば以降である。

 

  • 第6章 日本の業界団体

 

 1940年の鉄鋼統制会の組織化とその後の修正に、業界団体を組織し、産業政策を実行していくという「政府-業界団体-企業」という構造の端緒が見られる。

 政府と企業の間には大きな情報の非対称が見られ、戦争遂行のための鉄鋼増産は政府の計画を大幅に下回り、「上からの計画経済」の修正がなされる。企業の利潤動機を産業政策に組み込み3者が相互に情報を交換していくデザインができたのだ。

 このことは戦後に引き継がれ、少人数で技術や動向を把握しなければならない通産省は、業界団体をモニタリングするコストはかかるものの多様な企業の情報の集約のために業界団体を組織した。

 

  • 第7章 外地への進出と生産

 

 朝鮮では鉱業とそれを原料とする製造業に投資が傾注され、平行して鉱山に供給する電力産業への投資が並行してすすみ、日窒を中心にして、京城への一極集中が進んだ。

 台湾では米と砂糖の経済が行き詰まり、台拓の投資もさほど効果を生まなかったと見られる。

 樺太でも在来型産業を補強する程度でとまり、産業化を広範に推し進めるほどの投資は見られなかった。

 日本敗戦後に外地会社は閉鎖機関に指定され特殊清算を受けたか、在外会社に指定され、特殊整理された。事業規模と国内資産で前者が大きく、企業件数では後者が格段に多かった。

 後者の多くは指定解除を受け、そのまま戦後処理を終え、国内財産の多い企業については、残余財産が国内で解除され、新たな事業資産に振り向けられた。

 

まとめ

 

 戦前・戦中期において高等教育中等教育の質量の拡充が図られ、それが戦後の経営主体の変化のタイミングとも合致して、戦後の経済成長の下地となりました。ただし、50年代の半ばをすぎても、企業のシステム構築や金融市場の発達は思われていたほどには確認できず、シリーズの第5巻によりその本格的な始まりを見ていくことになります。