長々としたブログ

主にミネルヴァ書房の本が好きでよく読んでいます

「企業統治分析のフロンティア」を読んだ

 

企業統治分析のフロンティア (早稲田大学21世紀COE叢書―企業社会の変容と法創造)

企業統治分析のフロンティア (早稲田大学21世紀COE叢書―企業社会の変容と法創造)

 

 宮島先生の編集なされた日本企業の経営に関する分析本は、

 

日本の企業統治―その再設計と競争力の回復に向けて

日本の企業統治―その再設計と競争力の回復に向けて

 

 もあわせて、とても素晴らしいクオリティで日本企業の経営に関する豊富なデータをもとにした研究結果を見せてくれます。以下、「企業統治分析のフロンティア」の内容について。

 

  • 第1章

97年の銀行危機と時を同じくして、ソニー執行役員制導入を呼び水に、日本企業の経営組織改革は大規模に開始されます。以前は1.経営の執行と監督が未分離 2.過大な人数規模 3.内部昇進者中心といった特徴がありました。それが、米国型近似、もしくは執行役員制と規模縮小のセット、または規模縮小のみの3タイプのどれかへの分化が始まります。

  • 第2章

日本の上場企業が株主価値を最大化する金銭的なインセンティブは存在するか。これはしばしば指摘されてきた内容と整合的で、株主価値を増大させても社長の個人的資産はほとんど変化がなく、インセンティブがないとみなしてよい。

  • 第3章

日本生産性本部編「社是・社訓」と、Corporate Statements:The Official Misssions, Goals, Principles and Philosophies of Over 900 Companiesから、日本とアメリカの経営理念に関する実証分析をする。経営理念において、株主、従業員、顧客、取引先、地域社会の5つのステークホルダーに対する言及があるかを調べる。

その結果から見えるのは、株式会社は株主のために経営されているという見方は適切ではないこと、日本の約半数、アメリカの3分の2の企業が複数のステークホルダーの利益と満足を目標に経営されていること、日本における従業員を第一義的においた企業はごく少数派になりつつあること、最近の日本では株主利益を目標に経営する企業が増加しつつあることなど。

  • 第4章

日本企業の従業員は、株主重視の経営に対し高い支持をしている。経営に対する信頼が高まると、株主価値重視にも高い支持が向けられ、その逆のパターンでは株主に代わり従業員による経営の監視を支持する傾向も見られる。

  • 第5章

業績の高い企業ほど積極的に事業再編を進めていて、低迷企業ほど戦略の固定化で非効率な多角化を温存した可能性が示唆される。外国人株主持ち株比率と借入社債比率が高いほど、事業集約化の選択確率が高かった。

  • 第6章

p.147に載っている各国の上場企業の大株主の状況のグラフは国ごとの違いが面白いです。日本はファミリー比率の少なさ、大株主不在の割合がイギリス・オーストラリア・カナダ等に近い比率なのが興味深いところ。

経営権を世襲した企業の株価は非ファミリー企業より割り引かれる。

  • 第7章

買収防衛策のアナウンスメントは株主価値に対してネガティブな影響を与えている。これはライツプラン型買収防衛策の導入が、経営者の株主利益に対する優先順位の低さという情報を投資家に対し顕示した結果とみなせる。

  • 第8章

平成の会社法改正によって、多様な種類株式を設計・発行できるようになったが、反面小規模投資家や一般投資家などの合理的対応として、よくわからないものを避ける「あいまい性回避行動」をとる可能性が高い。

  • 第9章

非財務情報開示やエンゲージメントといった外部ガバナンス体制は、株式市場における企業評価と関連している。CSRはコストや利益の源泉としてみるよりは、企業活動の持続をするうえで必要な対応であるともいえる。

  • 第10章

LLSVによる投資家保護の水準・程度は各国法制の法的起源(英国法か大陸法か)により規定されているとの想定から出発する。日本はドイツ法から始まり、敗戦を経て50年代より英国法の影響を受けたアメリカ法をモデルとしている。戦前は低いとはいえ多国と比べ他国にくらべ後進的であったわけではなく、90年の取締役に対抗する権利、私人による法の実現、公的執行のスコアは英国とほぼ同じでドイツよりはるかに高い。

 

  • 第11章

戦前日本企業の株式所有行動は、高い集中度の企業と、株式が広範に分散した企業の二極化、の並存であった。外部大株主の役割は閾値までパフォーマンスの向上に寄与し、それを超えるとパフォーマンスを引き下げるという非線形

戦後は銀行・生損保・事業法人などの内部関係者の保有の優位により特徴づけられる。

相対的に高い安定保有は一度もパフォーマンスを優位に引き上げることはなく、バブル後は明確に負に作用している。

  • 第12章

戦前の日本企業の経営はは70年代と比べ低く長期政権。株式が分散した企業では、経営者の交代は負債と、ブロック・シェアホルダーによって担われた。

  • 補章

戦前期のM&Aの中心産業であった電力業を筆頭に、当時の大企業の資本形成に占める外部成長の割合は予想以上に大きいものであった。

 

まとめに

章ごとにコンパクトに内容がまとまり、日本企業の経営に対する確信を深める上でも、あるいは誤解を解く上でも非常に良書であると思います。もちろんフロンティアと銘打たれている以上、これからの更なる発展を望むところであります。